宅建業(宅地建物取引業)を営む事業者が支店を閉鎖したり、廃業を検討する際には、宅地建物取引業法に基づく厳格な手続きが求められます。提出先は都道府県または地方整備局、保証協会、法務局など複数にまたがり、期限を守らなければ罰則や免許取消しのリスクも発生します。

本記事では、廃業等届出書の提出、宅建協会(保証協会)への退会届、弁済業務保証金分担金の返金、免許換えといった一連の流れを、2026年時点の最新ルール(令和6年5月施行のオンライン申請制度、令和7年4月施行の法改正含む)に沿ってわかりやすく解説します。行政書士への依頼を検討する際の判断材料としてもご活用ください。

宅建業の「全面廃業」と「一部事務所(支店)廃止」は手続きが違う

宅建業の廃止手続きで最も誤解が多いのが、「全面廃業」と「一部の支店だけの廃止」では提出書類も手続きの流れも異なるという点です。

  • 全面廃業(会社自体の廃業・解散、個人事業の廃止など):「廃業等届出書」を提出し、免許そのものを失効させる。以後、宅建業としての広告・販売・契約締結は一切できなくなります。
  • 一部事務所(支店)のみ廃止:会社は宅建業を継続するため、提出するのは「変更届出書」。廃業等届出書ではありません。分担金も公告不要で比較的早期に取り戻せます。

この違いを誤ると、せっかく残す本店の営業にまで影響が出かねません。まずは自社の状況がどちらに該当するかを正確に把握し、手続きの全体像を押さえることから始めましょう。また、廃業・支店廃止の前に商号・代表者・所在地などに変更があれば、先に変更届を済ませておく必要があります。変更が未反映のままだと、弁済業務保証金分担金の取戻しに支障が生じる恐れがあるためです。

宅建業の「全面廃業」と「一部事務所(支店)廃止」は手続きが違う

廃業等届出書の提出:期限・提出先・必要書類

全面廃業の場合、その事実が生じた日から30日以内に廃業等届出書(様式第3号の5)を免許権者へ提出する義務があります(宅建業法第11条)。

廃業事由と届出義務者・提出期限

廃業事由届出義務者起算日
個人業者の死亡相続人死亡を知った日から30日以内
法人の合併消滅消滅法人の代表役員合併の日から30日以内
破産手続開始決定破産管財人決定の日から30日以内
解散(合併・破産以外)清算人解散の日から30日以内
宅建業の廃止本人・代表役員廃止の日から30日以内

提出先

  • 都道府県知事免許:主たる事務所の所在地を管轄する都道府県の宅地建物取引業担当課
  • 国土交通大臣免許:主たる事務所を管轄する地方整備局

必要書類と手数料

廃業等届出書(正副2部)、宅地建物取引業者免許証の原本、廃業事由を確認できる書類(登記事項証明書、破産手続開始決定通知書の写しなど)を添付します。廃業等届出書の提出自体に手数料はかかりません。

2026年時点のポイント:オンライン申請(eMLIT)に対応

2026年時点のポイント:オンライン申請(eMLIT)に対応

令和6年(2024年)5月25日から、国土交通省の手続業務一貫処理システム「eMLIT」で宅建業免許関係の申請・届出がオンラインで可能になりました。都道府県知事免許についても、eMLITを通じた電子申請の運用が広がっています。オンライン申請にはGビズIDプライム(またはメンバー)が必要で、免許証の原本は別途郵送する必要がある点に注意しましょう。

また、令和7年(2025年)4月1日施行の法改正により、更新の手数料が変更されました(大臣免許の更新はオンライン26,500円/紙33,000円)。様式も一部改定されているため、必ず最新版を使用してください。

⚠️ 廃業等届出書は、一度提出すると理由の如何を問わず撤回できません。提出後は新たな広告・販売活動・契約締結はできなくなるため、提出タイミングは慎重に判断しましょう。

宅建協会(保証協会)への退会届の提出

(公社)全国宅地建物取引業保証協会(全宅・ハトマーク)や(公社)不動産保証協会(全日・ウサギマーク)の社員となっている場合、廃業に伴い退会届の提出が必須です。免許権者への廃業届と、保証協会への退会届は別の手続きですので、両方を行う必要があります。

退会手続きの主な流れは次のとおりです。

  1. 保証協会の所属本部(各都道府県本部)に退会の意向を連絡し、所定の退会届様式を入手する
  2. 未納会費・負担金の清算
  3. 退会届に必要事項を記入し、本支店の所在地本部へ提出
  4. 免許権者の受理印付き廃業等届出書(副本)を添付
  5. 弁済業務保証金分担金返還請求書の提出

会員向けサポートサイト(全宅連の「ハトサポ」、全日の会員専用サイトなど)では、退会手続きの案内や必要書式を入手できます。未納会費があると退会が受理されない場合があるため、事前に清算しておきましょう。入会金や年会費は原則として返還されない点にも注意が必要です。

弁済業務保証金分担金の返金手続きの流れ

保証協会に加入する際に納付した弁済業務保証金分担金(本店60万円、支店1店舗につき30万円)は、退会または支店廃止に伴い返還されます。ただし、返還までの流れは全面廃業か一部廃止かで大きく異なります。

① 全面廃業(社員の地位を失うケース)

社員が地位を失った場合、保証協会は取引により生じた債権を有する者に対し、6か月以上の期間を定めて官報で公告しなければなりません(宅建業法第64条の11第4項)。この公告期間中に認証申出がなかった債権は、以後還付を受けられなくなります。

  • 返還までの期間:通常9〜10か月程度
  • 控除される費用:官報公告料(1行あたり約7,178円〜、行数により変動)、事務手数料など
  • 返還方法:指定口座への振込

② 一部事務所(支店)のみ廃止するケース

支店の廃止により、納付している分担金が法定額を超えることになる部分(支店1店舗あたり30万円)は、官報公告が不要で取り戻せます。これは宅建業法上重要なポイントで、全面廃業との最大の違いです。

  • 返還までの期間:公告不要のため比較的短期間(協会の事務処理次第で2〜3か月程度)
  • 支店廃止のみの場合、官報公告料は控除されません

返金請求時の注意点

  • 返還を受けるには、先に免許権者による廃業等届出書の受理または支店廃止の変更届受理が必要です。
  • 廃業前に商号・代表者・事務所所在地等の変更があれば、それらの変更届を先に済ませておかないと、分担金取戻しに支障が生じることがあります。
  • 税務上は雑収入や資産の減少として会計処理が必要になる場合があるため、税理士への相談をおすすめします。

営業保証金(法務局供託)の場合

保証協会に加入せず、直接法務局へ営業保証金(本店1,000万円、支店ごとに500万円)を供託していた事業者が廃業する場合は、法務局からの取戻し手続きが必要です。こちらも6か月以上の公告期間を経てから取戻しが認められるため、返還までは最低でも半年以上かかります。保証協会の弁済業務保証金制度に比べ原資が大きい分、資金回収までのキャッシュフロー計画が特に重要になります。

免許換えが必要になるケースとは?

支店廃止や本店移転によって、免許権者が変わる場合には「免許換え」が必要です。免許換えを怠ったまま営業を続けると、必要的免許取消処分の対象となる重大な違反ですので注意が必要です。

免許換えが必要になる主なパターン

  1. 大臣免許 → 知事免許:他県の支店をすべて廃止し、1都道府県内のみで営業する場合。新たな免許権者となる知事に直接申請します。
  2. 知事免許 → 大臣免許:他県に支店を新設する場合。主たる事務所所在地を管轄する地方整備局に申請します。
  3. 知事免許 → 別の知事免許:本店を他県に移転する場合。移転先の知事に直接申請します。

免許換えは新規免許取得と同等の手続きが必要で、登録免許税(大臣免許新規9万円)、知事免許の場合は各都道府県が定める手数料(33,000円程度)がかかります。さらに、保証協会側では分担金の移動手続き(既納付分の流用や追加納付の要否判断)が発生するため、トータルで2〜3か月程度の期間を見込んでおきましょう。なお、免許換え申請中も従前の免許で通常どおり営業を継続できます(新免許交付時点で従前免許が失効)。

よくある落とし穴

  • 役員や事務所の変更届が未了のまま免許換えを申請すると、受理されないケースがあります
  • 専任の宅地建物取引士が法定数(従事者5人に1人以上)に満たなくなる場合は、2週間以内に補充が必要です
  • 令和7年の法改正で、専任の宅地建物取引士の氏名は宅建業者名簿の登載事項ではなくなりましたが、変更の届出義務は残っています

廃業・支店廃止手続きは行政書士へ依頼すべきか?

宅建業の廃止・支店閉鎖は、

  • 提出先(都道府県・地方整備局・保証協会)が複数にまたがる
  • 事前の変更届や登記変更が必要な場合がある
  • 廃業届・変更届・免許換え・分担金返還請求が同時並行で進む
  • 期限(30日以内など)が厳格

といった理由から、自社対応は意外と負担が大きいのが実情です。

行政書士に依頼するメリット

  • 書類作成・提出の代行で本業への影響を最小化
  • 免許換えや変更届を含むワンストップ対応(司法書士・税理士と連携する事務所も多い)
  • 始末書や補正が必要な場面でも適切に対処
  • 分担金返還や保証協会手続きの取りこぼし防止

費用相場の目安(2026年時点)

  • 廃業届・変更届のみ:33,000円〜55,000円程度
  • 支店廃止+免許換え申請:132,000円〜(本店のみの場合)+実費(登録免許税9万円、協会事務手数料等)
  • 役員・専任取引士の変更が同時に発生する場合は追加料金

料金は事務所や地域、案件の複雑さで大きく変動します。複数の行政書士から見積もりを取り、実績(不動産分野の経験)、ワンストップ対応可否、費用の3点で比較するのが失敗しないコツです。各都道府県の宅建協会(例:東京都宅建協会、群馬県宅建協会など)でも相談窓口を設けており、会員であれば無料で相談できる場合もあります。

宅建業の廃業・支店廃止でよくある質問(FAQ)

Q1. 廃業等届出書を提出し忘れたらどうなりますか? 30日以内の届出義務を怠ると、50万円以下の罰金に処される可能性があります(宅建業法第83条)。速やかに提出し、遅延理由を記載した始末書の提出を求められることがあります。

Q2. 支店廃止だけで、本店は営業を続けたい場合の手続きは? 変更届出書(宅建業者名簿登載事項変更届)を、その変更の日から30日以内に提出します。同時に保証協会へも変更届を出し、支店分の分担金30万円の返還請求を行います。

Q3. 弁済業務保証金分担金の返金までどれくらいかかりますか? 全面廃業の場合は官報公告期間6か月を含め約9〜10か月、支店の一部廃止のみであれば公告不要のため、協会の事務処理完了後に比較的早く返還されます。

Q4. 廃業後も契約の残務処理はできますか? 個人業者が死亡した場合などは、相続人が既存契約の結了(引渡し・登記等)の範囲でのみ宅建業者とみなされます(宅建業法第76条)。新規契約はできません。

まとめ:計画的な手続きとプロの活用でスムーズな廃業を

宅建業の廃業・支店閉鎖は、廃業等届出書(または変更届)→ 保証協会への退会(または支店廃止)届 → 弁済業務保証金分担金の返還請求 → 必要に応じて免許換えという流れで進みます。ポイントを整理すると以下のとおりです。

  • 全面廃業と一部支店廃止では提出書類も返還期間も異なる
  • 廃業事由発生から30日以内に届出が必要
  • 2026年時点ではオンライン申請(eMLIT)が利用可能
  • 分担金返還は、全面廃業で約9〜10か月、支店廃止のみなら公告不要で短期間
  • 免許権者が変わる場合は必ず免許換え
  • 手続きが複雑で期限も厳しいため、行政書士への依頼が有効な選択肢

契約中の顧客対応や従業員の処遇、税務処理まで含めると、計画的な準備が欠かせません。迷ったらまずは専門家への相談から始め、後悔のない廃業・支店閉鎖手続きを実現しましょう。