不動産会社が宅地建物取引士(宅建士)に業務委託を行う際の注意点について解説します。独占業務の範囲、契約関係、違法行為とならないためのポイントを理解し、適切な業務委託契約を結びましょう。
独占業務委託は可能です
- 電子契約の全面解禁により、宅建士は在宅での独占業務遂行が可能になり、業務委託という形態が増えています。
- 国土交通省の見解では、宅建業法上、宅建士と不動産会社の間に明確な雇用関係の定めがないため、業務委託の宅建士に独占業務を委託しても直ちに宅建業法上の問題は発生しません。
運用上の注意点(4点)
- 従業者証明書の発行: 宅建業法第48条に基づき、業務委託者であっても従業者証明書の発行が必要です。
- 従業者名簿への記載: 従業者証明書の発行後、従業者名簿に記載する必要があります。この際、事業所の従業者の5分の1以上という専任の宅建士の配置基準を下回らないよう注意が必要です。特に配置基準ギリギリで運用している場合、業務委託者を増員すると専任の宅建士も増員が必要になる可能性があります。
- 宅建業法上の責任: 契約に関して問題が発生した場合、たとえ業務委託の宅建士の過失であっても、宅建業法上の責任は不動産会社にあります。
- 労働者性への留意: 業務委託契約であっても、勤務の実態が「労働者性」を持つと判断されれば、労働関係法令(労働基準法など)が適用される可能性があります。
- 厚生労働省の「労働基準法研究会報告」が判断基準の参考になります。
- 「指揮監督下にある」「勤務場所や勤務時間の拘束がある」「報酬体系が時間給で業務成果と報酬に差がない」などの場合、労働者と判断される可能性が高まります。
- 最終的な判断は個別の実態を総合的に勘案するため、必要に応じて弁護士の見解を仰ぐことが推奨されます。
宅建士の独占業務委託に関する注意点

不動産会社が宅地建物取引士(宅建士)に契約関連の独占業務を業務委託する際の主な注意点は以下の通りです。
宅建士の業務委託:基本と注意点
業務委託契約とは?
業務委託契約は、企業や個人事業主が、自社の業務の一部または全部を外部の専門家や業者に委託する契約形態です。不動産業界においては、宅地建物取引士(宅建士)の資格を持つ個人に対して、専門的な知識やスキルを必要とする業務を委託するケースが多く見られます。
業務委託契約は、雇用契約とは異なり、企業と宅建士の間には指揮命令関係は生じません。宅建士は、独立した事業者として、自身の裁量で業務を遂行します。そのため、業務の進め方や時間管理などは、基本的に宅建士自身に委ねられます。業務委託契約を締結する際には、契約内容を明確にし、後々のトラブルを防ぐことが重要です。
宅建士に業務委託するメリット
宅建士に業務委託を行うことには、様々なメリットがあります。まず、専門的な知識やスキルを活用することで、業務効率化やコスト削減が期待できます。
宅建士は、不動産に関する法規制や税務、市場動向などに精通しているため、これらの知識を活かして、迅速かつ正確な業務遂行が可能です。
次に、サービスの質向上も期待できます。宅建士は、顧客に対して、専門的なアドバイスや情報提供を行うことができるため、顧客満足度の向上に繋がります。さらに、柔軟な人材活用が可能になる点もメリットです。必要な時に必要なスキルを持つ人材を外部から活用することで、固定費の削減や事業規模の拡大に繋げることができます。
業務委託契約の種類
業務委託契約には、主に「請負契約」と「委任契約」の2種類があります。請負契約は、特定の成果物の完成を目的とする契約です。例えば、不動産の売買契約書の作成や重要事項説明書の作成などが該当します。宅建士は、完成した成果物に対して責任を負います。
一方、委任契約は、特定の業務の遂行を目的とする契約です。例えば、顧客との交渉や物件の調査などが該当します。宅建士は、善良な管理者の注意義務をもって、委任された業務を遂行する必要があります。どちらの契約形態を選択するかは、委託する業務内容や目的によって異なります。契約締結前に、契約内容を十分に確認し、理解することが重要です。
宅建士の独占業務と業務委託

宅建士の独占業務とは
宅建士の独占業務とは、宅地建物取引業法によって、宅建士の資格を持つ者でなければ行うことができないと定められている業務を指します。具体的には、重要事項説明、契約書(37条書面)への記名・押印などが該当します。これらの業務は、不動産取引の専門家である宅建士のみが行うことができ、無資格者が行うことは法律で厳しく禁止されています。
重要事項説明は、不動産取引において、購入者や賃借人に対して、物件に関する重要な情報を説明する業務です。37条書面への記名・押印は、売買契約書などの重要な書類に、宅建士が責任者として署名・捺印する業務です。これらの独占業務は、不動産取引の安全性を確保するために重要な役割を果たしています。
業務委託できる業務範囲
宅建士の独占業務以外の業務は、宅建士資格を持たない者でも業務委託が可能です。例えば、物件調査、顧客対応、広告宣伝、物件の写真撮影、物件情報の入力などが挙げられます。これらの業務は、宅建士の指示のもと、無資格者が行うことができます。 ただし、無資格者が行うことができる業務範囲は、あくまで宅建士の指示・監督下にある場合に限られます。無資格者が、宅建士の指示・監督を受けずに、独自に重要事項説明を行ったり、契約書に記名・押印したりすることは、法律違反となります。業務委託を行う際には、業務範囲を明確にし、無資格者が独占業務を行うことのないように注意が必要です。
名義貸しは絶対にNG
宅建士の資格を他人に貸与することは、宅地建物取引業法で明確に禁止されています。名義貸しは、不動産取引の公正さを損ない、消費者の利益を侵害する行為です。名義貸しを行った宅建士は、資格停止や登録抹消などの重い処分を受ける可能性があります。 また、名義を借りた者も、法律違反となり、罰金などの刑罰を受ける可能性があります。名義貸しは、宅建士自身のキャリアを台無しにするだけでなく、社会的な信用を失う行為です。絶対に名義貸しは行わないようにしましょう。もし、名義貸しを持ちかけられた場合は、毅然とした態度で断り、必要に応じて関係機関に相談することが重要です。
契約関係の注意点
契約内容の明確化
業務委託契約を締結する際には、業務範囲、報酬、契約期間、秘密保持義務、損害賠償責任など、契約内容を明確に定めることが非常に重要です。口頭での約束だけでなく、必ず書面で契約を締結するようにしましょう。
契約書には、委託する業務内容、報酬の金額や支払い方法、契約期間、契約解除の条件などを具体的に記載します。 また、秘密保持義務についても明確に定めることが重要です。業務上知り得た顧客情報や物件情報などを第三者に漏洩した場合の責任についても、契約書に明記しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。契約内容について、不明な点や疑問点がある場合は、契約締結前に必ず確認し、納得した上で契約するようにしましょう。
偽装請負のリスク
実質的に雇用関係にあるにも関わらず、形式的に業務委託契約を装うことは、違法な偽装請負とみなされる可能性があります。偽装請負は、労働関係法令の適用を逃れることを目的として行われることが多く、労働者の権利を侵害する行為です。指揮命令関係の有無、勤務時間や場所の拘束の有無、業務遂行方法の指示の有無など、雇用関係とみなされる要素がないか注意が必要です。
もし、偽装請負と判断された場合、企業は労働関係法令違反として、罰則を受ける可能性があります。また、労働者から雇用契約の成立を主張される可能性もあります。業務委託契約を締結する際には、雇用契約と業務委託契約の違いを理解し、適切な契約形態を選択するようにしましょう。
報酬と責任
業務委託契約では、一般的に、委託された業務の成果に対して報酬が支払われることが一般的です。報酬額は、業務内容や難易度、必要なスキルなどを考慮して決定されます。報酬の支払い方法は、月額固定報酬、時間単価、成果報酬など、様々な形態があります。契約締結前に、報酬額や支払い方法について、しっかりと協議し、合意することが重要です。
業務委託契約において、宅建士は、委託された業務の遂行において、専門家としての責任を負います。業務上の過失やミスにより、委託者に損害を与えた場合、損害賠償責任を負う可能性があります。そのため、宅建士は、誠実に業務を遂行する必要があります。
近年の不動産業界の動向と業務委託

不動産テックの導入
近年、不動産業界では、不動産テック(Real EstateTech)の導入が加速しています。不動産テックを活用することで、業務効率化や顧客体験の向上を図る企業が増えています。例えば、オンラインでの物件内覧や契約手続き、AIを活用した物件提案などが可能になっています。 これらの技術革新により、宅建士の業務内容も変化しています。従来の対面での業務に加え、オンラインでの顧客対応やデータ分析など、新たなスキルが求められるようになっています。宅建士は、これらの変化に対応するため、常に最新の技術や知識を習得し、自己研鑽に励む必要があります。不動産テックを積極的に活用することで、業務効率化や顧客満足度の向上に繋げることができます。
賃貸住宅管理の変化
賃貸住宅管理においては、入居者の高齢化や孤独死などの問題が深刻化しています。これらの問題に対応するため、宅建士は、高齢者福祉や医療に関する知識、緊急時の対応スキルなどを身につける必要があります。また、入居者とのコミュニケーションを密にし、信頼関係を構築することが重要です。 さらに、空室対策や家賃滞納問題など、賃貸住宅管理に関する様々な課題に対応する必要があります。宅建士は、市場動向を分析し、適切な家賃設定やリフォーム提案を行うことで、オーナーの収益最大化に貢献することができます。賃貸住宅管理の専門家として、入居者とオーナーの双方にとって、最適なソリューションを提供することが求められます。
コンサルティング業務の拡大
不動産コンサルティング業務は、資格がなくても行うことができますが、専門知識と豊富な経験が不可欠です。宅建士の資格を持つ者は、不動産に関する法規制や税務、市場動向などに精通しているため、顧客のニーズに合わせた的確なアドバイスを提供することができます。 例えば、不動産の有効活用、相続対策、投資戦略など、様々なコンサルティングニーズに対応することができます。顧客との信頼関係を構築し、長期的な視点でサポートすることで、顧客の資産形成に貢献することができます。不動産コンサルタントとして、顧客の夢や目標を実現するために、専門知識と経験を活かすことが重要です。
まとめ:宅建士の業務委託契約を成功させるために
適法な契約の締結
宅建士の業務委託契約を成功させるためには、まず、宅建士の独占業務の範囲、契約内容、責任の所在などを明確にし、適法な業務委託契約を締結することが不可欠です。契約書を作成する際には、弁護士や行政書士などの専門家のアドバイスを受けることを推奨します。契約内容について、双方が十分に理解し、合意した上で契約を締結することで、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。 また、契約期間や契約解除の条件についても、明確に定めておくことが重要です。契約期間満了後の更新についても、事前に協議しておくことで、スムーズな契約更新が可能になります。
専門家としての自覚
宅建士は、常に最新の知識を習得し、顧客のニーズに合わせた最適なサービスを提供することが求められます。不動産に関する法改正や税制改正、市場動向など、常にアンテナを張り、最新情報をキャッチアップする必要があります。また、顧客とのコミュニケーション能力を高め、顧客のニーズを的確に把握することが重要です。 顧客に対して、専門用語をわかりやすく説明したり、リスクやデメリットも包み隠さず伝えたりすることで、顧客からの信頼を得ることができます。宅建士は、単なる不動産取引の仲介者ではなく、顧客の人生設計をサポートするパートナーとしての役割を果たす必要があります。
信頼関係の構築
不動産会社と宅建士の間で、良好なコミュニケーションを図り、信頼関係を構築することが、業務委託契約を成功させるための重要な鍵となります。定期的な打ち合わせや情報共有を行い、お互いの進捗状況や課題を共有することで、スムーズな業務遂行が可能になります。また、お互いの意見を尊重し、協力し合うことで、より良い成果を生み出すことができます。 信頼関係を構築するためには、日頃からのコミュニケーションを密にすることが重要です。電話やメールだけでなく、対面でのコミュニケーションを積極的に行い、お互いの考え方や価値観を理解することが大切です。信頼関係があれば、困難な状況でも協力して乗り越えることができます。
